製造業20年からの転身で見えた、「畑違い」に見えるキャリアの共通点

キャリア・働き方

はじめに

製造業で20年働いた後、私は障害福祉の世界に飛び込みました。

それまでの仕事と、就労継続支援B型事業所での仕事。一見すると、まったく違う世界です。

製造業では、製品をつくり、品質を守り、工程を改善する。

福祉では、利用者さん一人ひとりと向き合い、その人に合った支援を考える。

「ものづくり」と「人を支える仕事」。

これほど畑違いの転職も、そう多くはないかもしれません。

そして私は、その職場を半年ほどで離れることになりました。

42歳での異業種転職。しかも短期間での休職。

結果だけを見れば、「転職に失敗した」と言われても仕方がないと思います。

けれど、今振り返ると、この半年間で得たものは決して小さくありませんでした。

むしろ、20年間の製造業経験を、まったく別の角度から見直すきっかけになったのです。

20年の製造業を離れて、福祉業界へ

私は製造業で20年以上働いてきました。

長い年月の中で身につけてきたのは、単に製品をつくる技術だけではありません。

工程を見直す。問題の原因を探る。作業を標準化する。人員を配置する。マニュアルをつくる。

現場で起きていることを整理し、より良い方法を考える。

そうした「仕事の進め方」そのものが、自分の中に染みついていました。

そんな私が、国家資格キャリアコンサルタントを取得したことをきっかけに、人と関わる仕事へ転身しました。

選んだのは、就労継続支援B型事業所でした。

これまでとはまったく違う業界。給与水準も大きく下がりました。

それでも、「人と関わる仕事がしたい」「資格を活かしたい」という思いがありました。

42歳。20年以上の社会人経験があるからこそ、早く戦力になりたいという気持ちも強かったのです。

入社して間もない時期から、キャリアコンサルタントの知識を活かした定着支援や教育に関心があり、社内公募にも応募しました。
事業部のプロダクトモデルの企画書を作り、部長の承認を得るところまで進めたものもありました。

今振り返れば、少し急ぎすぎていたのかもしれません。

「経験があること」と「その職場を理解していること」は違う

私は早く貢献したいと思っていました。

だから、出勤前に仕事をしました。休日にも企画を考えました。利用者さんについて気づいたことをノートにまとめました。

自分がやりたいと思って取り組んでいたことです。

しかし、仕事というものは、自分の努力量だけで成り立つわけではありません。

その職場には、その職場で積み重ねられてきた考え方やルールがあります。そして、そこで働く人たちにも、それぞれの経験や価値観があります。

私は製造業で20年間働いてきました。その経験は確かに武器だったと思います。

けれど、新しい職場に入った瞬間から、その武器をそのまま使えるわけではありません。

まず、その場所の「当たり前」を理解する必要がある。

これは、今回の転職で身をもって学んだことでした。

それでも、製造業の経験が驚くほど役立った

一方で、実際に福祉の現場で働いてみると、思いがけない共通点も見えてきました。

就労継続支援B型事業所では、利用者さんがさまざまな作業に取り組みます。私が勤務していた事業所でも、木のチップやはがき、しおりなど、ものづくりに関わる作業がありました。

新しく受託した仕事では、作業スペースをつくり、作業手順を考え、マニュアルを整え、利用者さんの適性を見ながら作業を振り分ける必要がありました。

そこで活きたのが、20年間の製造業経験です。

「この作業は、どこで時間がかかっているのか」 「作業する人にとって、やりにくい環境になっていないか」 「工程を分けたら、もっと取り組みやすくならないか」

製造業で何度も考えてきたことでした。業界は違っても、考え方そのものは使えるんですね。

実際に、最初は完成まで1ヶ月ほどかかっていた作業を、環境や工程、役割分担を見直すことで、1週間程度で完成できるようになりました。

そのときは純粋に嬉しかったです。

そして何より嬉しかったのは、作業環境が整ったことで、利用者さんが生き生きと作業している姿を見ることができたことでした。

「自分が20年間やってきたことは、ここでも使えるんだ」

そう感じた瞬間でした。

同じ「報連相」でも、見ているものが違う

もう一つ、強く印象に残ったことがあります。それは情報共有の密度です。

製造業でも、もちろん報告・連絡・相談は重要でした。しかし福祉の現場では、扱う情報の種類と細かさがまったく違いました。

利用者さんの体調。食事量。その日の言動。面談で話した内容。他の利用者さんとの関係。作業の得意不得意。障害特性。家庭環境。グループホームとの連携。医療機関との連携。

毎日、さまざまな情報が動いていました。

製造業では「製品」や「工程」を中心に情報を整理します。福祉では「人」の状態を中心に情報を整理します。

どちらも情報共有が重要であることには変わりありません。しかし、何を見て、何を判断するのかという前提が違うのです。

この違いは、実際にその現場に入らなければ分からなかったと思います。

「価値観は人それぞれ」を、頭ではなく体で知った

福祉の現場で、私は人との違いについても考えさせられました。

自分にとって当たり前だと思っていたことが、他の人にとっては当たり前ではない。

仕事に対する考え方。利用者さんとの距離感。記録の仕方。優先順位。コミュニケーションの取り方。

20年間、同じような文化の中で働いてきたからこそ、「仕事とはこういうもの」という自分なりの基準ができていました。

それは、長年の経験によって培われた大切なものでもあります。

しかし同時に、新しい環境に入ったときには、自分自身を縛るものにもなり得る、、、そのことを、今回痛感しました。

経験があるからこそ見えるものがある。経験があるからこそ、見えなくなるものもある。

今回、その両方を経験しました。

半年で休職したことは「失敗」なのか

私は今、3ヶ月ほどの休職期間に入り、療養と転職活動をしています。

半年で休職したことを考えれば、「もっと続けられたらよかった」と思うことがないわけではありません。

けれど、今はこの経験を単純に失敗とは考えていません。

なぜなら、福祉の現場に入らなければ、自分の製造業経験が「業界」ではなく「型」として使えることに気づけなかったからです。

同時に、自分には何が足りないのかも分かりました。

新しい環境に入ったとき、これまでの経験を一度横に置き、その職場の文化や価値観を理解する柔軟さ。

自分が正しいと思うことを、すぐに実行するのではなく、周囲との関係の中で進めていく力。

これは、20年間同じ業界で働いているだけでは、なかなか気づけなかったことだと思います。

畑が変わっても、経験の根っこは消えない

今回の転職で分かったのは、「異業種では経験が通用しない」ということではありませんでした。

むしろ逆でした。

経験は、業界の名前を越えて残ります。

製造業で身につけた工程改善、作業環境の整備、マニュアル化、役割分担といった考え方は、福祉の現場でも活かすことができました。

一方で、その経験を活かすためには、新しい畑の土壌を理解しなければなりません。

自分の経験を押し込むのではなく、まずその場所を知る。その上で、自分の経験と新しい環境を掛け合わせる。

それが、異業種で働くということなのかもしれません。

製造業20年。福祉業界半年。

数字だけを見れば、圧倒的に製造業の方が長いです。

でも、半年しかいなかった福祉の現場からも、20年間では得られなかった気づきをたくさん持ち帰ることができました。

だから私は、今回の転職を「失敗」という一言では終わらせたくないのです。

20年かけて身につけたものと、半年間で知ったこと。

その二つを持って、今度はどんな場所で、どんな働き方をするのか。

現在の私は、その答えを探している途中です。

あなたへ

もし今、異業種への転職を考えているなら、これまでの経験を「その業界でしか使えないもの」と考えなくてもいいと思います。

業界が変わっても、仕事の中で身につけた考え方や問題解決の方法は、思いがけない場所で役に立ちます。

ただし、新しい場所では、これまでの常識が通用しないこともあります。

だからこそ、経験を持っていくことと、まっさらな目で新しい場所を見ること。その両方が必要なのだと思います。

私自身も、次の仕事を探す中で、そのバランスを忘れないようにしたいです。

畑は変わっても、これまで育ててきたものまで失われるわけではありません。

むしろ、違う畑に移ったからこそ、自分が何を育ててきたのかが、初めて見えることもあるのだと思います。


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